「ヒバート男爵……メルの父親か」

 自分が口にした人物の姿を思い浮かべ、ミケランゼロが眉を顰めた。
 その足下では、ネコが一際凄まじい声を上げる。

『ヒバートじゃとぉ? いつぞや汚い手で我の子に触れようとした、あのいやらしいおっさんが黒幕かい! うぬぬぬぬぬっ、許さーんっ!!』
「「「ミィイイイイッ!!」」」
『えっ? えっ? かーちゃんもきょうだいも、そいつと知り合いにゃ? おれだけ知らないの、やだにゃー!』

 まさしく怒髪天を衝く形相のネコと、可愛い顔を皺くちゃにする三匹の子ネコ達。
 唯一ヒバート男爵と面識のないチートは、彼らの周りをくるくる走り回った。
 そんなネコ達の喧騒の中、ミケランゼロが首を捻る。

「ここ数年は特に、あまりいい評判は聞かないな。だが、彼はそもそも、タマと接点はないはずだが……」
「何寝ぼけたことをおっしゃってますの、殿下。今や、ベルンハルトの城におタマと接点のない者などおりませんわ」

 ドスッ、とミケランゼロの胸を人差し指で突いて言う妹に、不敬罪ぃいい、と准将が喉の奥で悲鳴を上げる。
 なお、メルの代わりにロメリアを人前に出せる姿に整えたのも、この兄である。

「ロ、ロメリア! メルの愚行に動揺する気持ちはわかるが、少しは口を慎み……」
「お兄様が慎みなさい」

 鋭すぎる舌鋒を阻もうと手を伸ばしてくる准将の鳩尾に、ロメリアが容赦のない肘鉄砲を食らわせて黙らせる。
 彼女は、ミケランゼロをじろりと睨んで続けた。