「これは──メルの髪ですわ」


 長く艶やかな黒髪が切り落とされ、渦を描くようにして木の下に捨てられていたのだ。

「……切り口を見る限り、鋭利な刃物で一気に切り落とされたようだな」
「しかし、周囲には血痕はもちろん、争った形跡もございませんね。メルが何者かに襲われて髪を切られた、というわけではなさそうです」
「殿下、父上! 真新しい蹄の跡が、要塞とは別の方角へと続いております!」

 ミケランゼロとミットー公爵が難しい顔をする中、周囲を調べていた准将が新たな情報を持ってくる。
 ロメリアは拾い上げた一束の髪を見下ろし、口を噤んでいた。
 その美しい横顔を、トライアンがじっと睨みつけている。
 一方、ネコ一家はというと……

『たまこぉ! たぁまこぉおおおお!!』
『かーちゃん! 落ち着くにゃ!』

 ネコがふぎゃーふぎゃーと鳴き喚き、チートはにゃーにゃー言いつつその周りをくるくると走り回る。
 子ネコ達もミーミー鳴きながら右往左往して、とにかく一家揃って珠子の所在不明に取り乱していた。
 遠目に見ればモフモフ大集合でほっこりしそうな光景だが、当人達はいたって真剣だ。

『珠子ねーちゃんは毛並みが貧相で弱っちそうにゃけど、きょうだいの中じゃ一番でっかいから大丈夫にゃ!』
『ばっかもーん! 珠子はあれでも人間の中じゃ小さい方なんじゃいっ! あああ、今頃どこかで不安がって泣いとるかも知れん……! たまこぉおおおっ! 聞こえたら、返事をせぇええいっ!!』