『た、たたた、珠子ぉ! どこ行ったんじゃぁあああ!?』

 みぎゃあああああっ!! と、森の中に凄まじいネコの叫び声が響いたのは、太陽が山際から完全に離れてからだった。




 時を少し遡り、要塞。

「──おい、起きろ。タマのところに行くぞ」

 一般士官用のものとは違い、上官用の部屋には水回りの設備も整っている。
 ミケランゼロは完璧に身支度を整えてから、いまだベッドで眠りこけているネコを揺すった。
 しかし、うにゃうにゃとひげ袋を動かすばかりで、まったく起きる気配がないため、仕方なく腕に抱えて廊下に出る。
 彼は昨夜宣言した通り、まっすぐに珠子の部屋に向かった。

「──タマ?」

 ところが、いくらノックをしようと、扉が開く気配どころか返事もない。
 廊下に立っていた守衛の話では、夜が明け切らないうちに顔を洗いに出たままだと言うではないか。
 廊下で顔を合わせて連れ立っていったらしいメルも、まだ戻ってはいなかった。

「ゆうに二時間は経っているじゃないか。どこへ行ったんだ?」
『おおーい、珠子ぉー! どこじゃあー! どこ行ったー!?』
「メルと一緒に、先に朝食を食べに行ったのか……」
『この母に朝の挨拶もせんままどこぞへ行くとは、けしからんぞーっ!!』

 ようやく覚醒したネコも、珠子の不在に気づいて騒ぎ出す。
 ネコはミケランゼロの腕を抜け出し、にゃあにゃあと鳴きながら廊下を右往左往し始めた。

「「「ミーミー! ミーッ!!」」」

 そのただならぬ声が聞こえたのか、あちこちに散っていた三匹の子ネコも駆け戻ってくる。
 この頃にはほとんどの武官達が目を覚ましており、何事かと廊下に顔を出した。
 最後に、ギギギ……、と軋んだ音を立てて珠子の隣の部屋の扉が開き……