「あの、メルさん……う、馬で行くんですか……?」
「はい……この裏の森を抜けた先に丘がございまして、ぜひともそちらで朝日をご覧いただきたいのです」

 馬に乗せられたのは、想定外だった。
 要塞の門番は、入る者は厳しく審査するが、出る者にはほとんど興味を示さない。
 メルさんの前に抱えられるようにして座らされ、それこそ借りてきた猫みたいに固まる乗馬初体験の私を見て、大丈夫かい? と笑っただけだった。
 しかし、要塞を出てほどなく、私は後悔し始める。
 お尻が痛くなってきたのが、理由ではない。

(ミケは、朝一番に訪ねるって言ってくれていたのに……)

 昨夜は明るく振る舞ってはみたが、ミケはきっと私がしょぼくれていたことに気づいている。
 そんな私が部屋にいないとなると、彼を心配させてしまうだろう。
 一方で、私に朝日を見せようとわざわざ馬まで出してくれたメルさんの好意も無下にできない。
 それに、大きく揺れる馬の上で口を開こうものなら、舌を噛んでしまいそうだった。

(丘に着いたらメルさんに事情を話して、早めに要塞に戻ってもらおう……)

 この判断が間違いであることに気づくのに、そう時間はかからなかった。