「私は……タマの髪の方が好きだな。あれに顔を埋めていると、心が安らぐんだ」
『そりゃ、お前。珠子がお前を思いやって、せっせと負の感情を払っとるからじゃろうが』
「……タマを吸いたい……一晩中、吸っていたい……」
『おーい、やめろー! やめろやめろやめろ! 我の娘に対するいかがわしい発言、やめろーっ!!』

 腹に悩ましげなため息を吐きつけてくるミケランゼロの頭に、ネコは連続猫パンチをお見舞いして猛抗議する。
 そんなネコだって、以前珠子に体を使ってでもミケランゼロを陥落させろと言ったのだが、その矛盾を指摘する者はここにはいない。
 暴れるネコを顔に張り付かせたまま、ミケランゼロはベッドに仰向けに倒れ込んだ。

「タマを……傷つけるつもりなど、なかったんだ……」

 苦しそうに吐き出された言葉に、ネコはピタリと動きを止める。
 カチカチ、と時計の音がいやに大きく響いた。
 
「ただでさえ、違う世界に来てしまって不安な思いをしているだろうのに、配慮が足りなかった……かわいそうなことをしてしまった」

 ミケランゼロの懺悔が続く。
 その顔の上で、ネコはやれやれとため息を吐いた。

「明日、タマとしっかり話をしよう。馬車での移動も飽きてきた頃だろうから、私の馬に一緒に乗せようか」
『おいおい、珠子は乗馬なんぞしたことがないぞ? あとで、尻が痛いとうるさいんじゃないか?』
「明日は……確か、大きな町を通る予定だったな。休憩がてら立ち寄って、何か買ってやろう。タマは、何を喜ぶんだろうな?」
『知らん。菓子でも買ってやれ。お前、珠子を甘やかしすぎじゃぞ』

 ネコに話しかけている風だが、ミケランゼロのこれは独り言だ。
 珠子を意図せず傷付けてしまい、彼自身もショックを受けたのだろう。