『おネコ様の大事な娘さんを凹ませて大変申し訳ございませんでした、と謝れ。さすれば、今日のところは猫パンチ一発で許してやらんこともない。その際、爪を出すか出さないかはお前次第じゃ!』

 なんだかんだ言いつつも、この自称母上様は、珠子を悲しい気持ちにさせた元凶であるミケランゼロに腹を立てているのだ。
 彼やベルンハルト王国の事情など、ネコにとっては知ったことではない。

「……何やら、説教をされているような気がするな?」

 ネコの言葉がわからないミケランゼロも、いかにも恨みがましげな態度からその思いを感じとったようだ。
 窓を閉め直し、ネコがいるベッドの方へやってきた。
 しかし、床ではなくベッドに座ったものだから、爪出し猫パンチの刑が確定したかに思われたが……

「んにゃ?」

 ネコがシャキンと爪を出して右前足を振り上げるよりも早く、ミケランゼロが両脇の下に手を入れて持ち上げてしまった。
 さらには、その真っ白いふかふかのお腹の毛に顔を埋め、すうと大きく息を吸う。
 
「お前……モフモフだし、いい匂いがするな……」
『いや、今更じゃな。大丈夫か? 人生、だいぶ損しとったぞ?』

 普段はほとんどネコに興味を示さないミケランゼロが、珠子にするみたいにその毛並みに癒やしを求める。
 これにはネコも拍子抜けし、ついでに同情をした。

『お前……さては、相当参っとるな?』

 ぽむっ、と金色の頭を叩いたクリームパンみたいな前足は、爪が引っ込んでいた。
 ミケランゼロはもう一度大きく息を吸い込むと、だが、と続ける。