『この、うそつき娘がっ』
「何よ……」
『その顔のどこが大丈夫なんじゃ』
「うるさいな……」

 私はネコの視線から逃れるようにベッドに駆け戻った。
 勢いよく突っ伏すと、ベッドに乗っていた子ネコ達が反動で跳ねる。
 ネコもため息を吐きながら戻ってきて、私の靴を咥えて脱がし、床に落とした。
 
『やれやれ……珠子とて、あの王子に言えんことがあるんじゃぞ?』
「ないよ、別に。……まさか、陰キャだったってこと?」
『だったも何も、お前は今でも十分陰キャだろーが。まさか、陽キャになったつもりでおったんか? 片腹痛いな』
「ひどくない?」

 ベッドから少しだけ顔を上げて睨む私に、ネコはまた悪役さながらの笑みで応えた。

『ぐふふふふ……我らをただの可愛いモフモフ扱いする人間どもは、我らがこれまで数多の世界を滅ぼしてきたとは思いも寄るまいなぁ』
「世界を、滅した? あなた達がって……何の話をしている、の……?」

 それこそ思いも寄らない話題に、私は慌ててベッドの上に起き上がる。
 にちゃあ、とネコが不穏な笑いを浮かべて続けた。

『元来の我らは本能に従い、人間の負の感情を際限なく食らう生き物よ。しかも、爆発的に増える。数が増えれば糧となる負の感情が足りなくなるじゃろ。すると、どうすると思う?』
「新天地を求めて世界を渡るんでしょ? あなたが、私のところに来たみたいに……」
『その前段階の話をしとるんじゃい。糧が少なくなれば、普通は増やそうとするじゃろ? 人間なら、作物を育てたり、家畜を養ったりしてな。我らも育てるんじゃ。人間の負の感情をな』
「ど、どうやって……?」