私以外の者には、暗黙の了解があった。
 その礎石となっているのは、彼らに対するミケの信頼だ。

「私には……それが、なかった」

 ベッドに顔を押し付けたまま唇を噛む私の頭を、ネコがクリームパンみたいな前足でポンポンと叩いた。

『まだ半年の付き合いじゃし、あの王子はお前を民間人と言っとったくらいじゃ。軍の事情にあまり深入りさせたくないんじゃろうよ』
「……わかってるよ」
『別に、意地悪でお前に伝えてなかったわけじゃなかろう』
「わかってるってば」

 わかっている。
 私が傷つくこと自体、お門違いだということも。
 ただ、自分だけが何も知らなかったと気づいた私に向けられた、人々の気まずそうな顔を見て、思い出してしまったのだ。 
 猫カフェで同じシフトに入っていた子達が、私を除いたライングループを作っていたり、終業後に私以外のメンバーで遊んでいた、と知った時の気持ちを。

「わかってるけど……しんどい」
『はー、やれやれ……』

 学生時代も友達がいなかったため、修学旅行の部屋割を決める時なんて苦痛だった。
 余った私は、人数が半端だったグループの部屋を間借りさせてもらうしかなく、疎外感と孤独にいっそう苦しめられた。

(だから昨日の夜、一つの部屋に集まってミケ達と雑魚寝したのが、とても楽しかったんだ……)

 この世界に来て、少しは積極的に人と関われるようになって、もう疎外感を味わうことはないなんて勝手に思い込んでいた。

「気の置けない仲だって思っていたのは私だけで、みんなは……ミケは、違ったのかもしれない……」

 自分とミケの間に、突然分厚い壁が立ったように錯覚し、私の気持ちはどこまでも沈んでいく。
 はあー……と、背中の上でネコが一際盛大なため息を吐いた。
 それから、ベッドに突っ伏した私の後頭部に額を擦り付け、ゴロゴロと喉を鳴らして言う。

『あのなぁ、珠子よぉ。我もきょうだい達も、お前の負の感情を食ってやることはできんのじゃ。自力で振り払うか、消化せい』
「……なんでできないの?」
『珠子は同族じゃろ。共食いになってしまうからのぉ』
「……変な理屈。そもそも、同族じゃないし」

 その時、コンコンと扉を叩く音がした。
 続いて聞こえた声に、私はベッドから飛び起きる。


「──タマ、起きているか?」