「えっ……?」

 誰かが、私達の背後に立っていることに気づいた。
 背が高くて体格のいい男性だ。
 他の武官達と同じ黒い軍服に身を包んでいるので、今回の旅のメンバーだろう。
 逆光でその表情はよく見えないものの、眼光鋭くこちらを──トラちゃんを見下ろしているのだけはわかった。

「ト、トラちゃん! こっちへ……」

 本能的に危険を感じた私は、トラちゃんを自分の方へ引き寄せようとした。
 ところがそれよりも早く、私がロメリアさんに腕を掴まれ引っ張られてしまう。
 時を同じくして、トラちゃんが小さく声を上げた。

「わっ……」

 男の左手が彼を倒木のベンチから引き摺り下ろし、地面に押さえつける。
 さらに、右手には……

「──王子よ、お覚悟をっ!!」
「や、やめて! トラちゃん──!」

 ナイフが握られていた。
 男は、地面に仰向けに倒れたトラちゃんの上に跨り、その切先を突き立てようとする。
 とっさに飛び出そうとした私の腕を、ロメリアさんが強く握って止めた。
 そんな中で響いたのは、慌てて駆け寄ってきたミケの声だ。

「──やめろ!」

 さすがに王子の声は無視できないのか、男がビクリとして動きを止めた。
 ミケは彼を刺激しないようにか、少し離れたところで立ち止まって、落ち着いた声で語りかける。