私はくすりと笑う。
 元の世界では、人見知りし過ぎて全然友達ができなかった自分が、異世界に来てこんなに打ち解け合える相手に恵まれるなんて不思議な気分だった。
 廊下はまだバタバタと人が行き交う音で騒がしいが、朝まで領主サイドの前に姿を現す気のないミケがこの場を仕切る。

「さて、明日も一日移動だ。もう寝るぞ」
「はーい」
「タマは素直でいいな。どうか、そのままでいてくれ」
「ふふ……」

 唯一返事をした私の、以前とは正反対の色になってしまった髪を、ミケが褒めるみたいに撫でてくれる。
 面白がったロメリアさんと、ミケに妙に対抗心を燃やすトラちゃんがそれを真似ると、メルさんはネコの毛並みを撫でながらくすくすと笑った。
 一緒に寝ようと集まってきた子ネコ達に頬を寄せ、私は幸せな気分のまま瞼を閉じる。

『珠子よ、他人に心を預けるのも、ほどほどにしろよ……』

 そんな私に、ネコはいやに冷静な目をして忠告してきた。
 それが気にならなかったわけではない。
 だが、この時の私は、明らかに舞い上がっていた。
 後々、冷や水を浴びせられることなるとも知らずに──。

 なお、ミケだと思って夜這いをかけた領主の娘はというと……

『おれ、ミットーさんと坊を、守ったにゃ!!』

 チートに、散々顔面を引っ掻かれてしまったらしい。
 ミットー公爵と准将が悲鳴を上げたのは、目の前で思いも寄らない制裁が下されたせいだった。
 もちろん、娘の顔面が傷だらけにされようと、合鍵まで使って彼女を客室に侵入させた領主側に文句を言う権利などない。
 朝食の席に、領主の娘の姿はなかった。