「あ~、いってぇなぁ。
 どうしてくれんだよ、これよぉ」

 しかも、すっごいガラの悪い魔王様になってらっしゃる!
 なに?
 一体なにがどうして、こんなコトに!?

「そうか! わたしが二回もぶつかったから、千景くん、おかしくなっちゃったんだ!」
「あぁ?」
「ひー! ごめんなさい、ごめんなさい!」

 頭をペコペコ下げる。
 だけど千景くんは、謝るわたしの口を、まるで蚊をしとめるみたいに――パチンと叩いて、そのまま手でふさいだ。

「むぐ!?」
「もう授業は始まってんだよ。静かにしろ」
「わはひまひは(わかりました)……!」

 オニも黙るような、そんなコワさを千景くんから感じる。
 するどく光る目に、あやうく気絶しそうになった。
 あぁ、なんでこんな事に……。

 クラスのみんな。
 ごめんなさい。
 わたしは、ウソをついていました。
 今まで一番怖いものはみんなだと、そう思ってました。

 だけど、違います。
 わたしが一番怖いもの。
 それは――

「で、許してほしければ、俺の話を聞け。
 返事は”了解”。それだけだ」
「り、りょーかいぃ……」

 野良千景くん。
 この人が、わたしの一番怖い(×もの)(〇ひと)です。

 ◇