「野良千景くん……」
「あ、俺のことは千景って呼んで」
「千景、くん……?」
「そうそう」
後ろ頭しか見えないけど、声だけで、千景くんが笑っているのが分かる。
千景くんから出るオーラは、とても優しかった。
ありがとう、千景くん――
なんて――――。
そう思っていたのが、三分前。
だけど、これは一体。
どういう事なんでしょう?
「聞いてんのか?
人に二回もぶつかっておいて謝らねぇなんて。
一体、どういう神経の図太さだよ」
「……だ、誰?」
わたしの前には、千景くん。
それは確かにまごうことなき事実なんだけど……なぜか千景くんは「王子様」ではなくなっていた。
じゃあ、何かというと……
「お前、さっきも俺にぶつかって謝りもせずに逃げたよな?
そんで、今度は頭突き。
しかも謝るどころか、スルーしやがって。
ココ見ろよ、赤くなってんだろーが」
「王子様じゃなくて、魔王様……?」
みなさん、おどろかずに聞いてください。
王子の着ぐるみを脱いだ千景くんは、超コワい魔王様でした。