進んだ道を戻って、千景くんはわたしの所へ戻ってきた。
 そして「はぁ」と、なぜかため息をつく。

「なんでため息……?」
「いや……まさか小羽に、そんなこと言われるなんてな」
「あ、心配されるのイヤだった?」

 すると千景くんは「ブハッ」と吹き出した。
 口に手をあてて、クツクツ笑っている。

「心配されるのがイヤな奴なんて、いんの?」
「!」

 今……。
 千景くんの魔王のイメージが、一気になくなった。
 千景くんって、こんな風に笑うんだ。

「むしろ逆だっての。たまには心配されんのも悪くねーな」

 ポンッ

「ありがと、小羽」
「え、えっ」

 千景くんは、わたしの頭にやさしく手を置いた。
 やさしい手つき、やさしい顔。
 教室での王子様でも、魔王でもない千景くん。

 あれ?
 なんだか、わたし――

「おい小羽どした? ボーッとしてるぞ」
「ふへ……?」

 ポケ~とした意識を、一気に呼び戻す。

 あれ? わたし今……
 まさか千景くんにみとれていた!?