「さっき気を失う前……何かの声が聞こえた?」
「何かの声?」

「例えばカラスの声、とか」
「……」

 カラス――その言葉を聞いた瞬間。
 休田静ちゃんは、小さな声で「あのね」と話した。

「さっき寝てる時にね、カラスの夢を見たの」
「え、どんな?」

「カラスが、自分の行きたい所に、自由に飛んでる夢。
 わたしはなぜか、そのカラスの背中に乗ってるの。
 わけわかんないけど……楽しい夢だったっ」
「休田静ちゃん……」

 その時。
 休田静ちゃんは、少しだけ悲しそうに笑った。

「あの子も……今、自由に飛べているのかな。
 そうだったら、いいな」

 すると、その時。
 彼女を見ていたカーくんが、広く大きく、羽を広げた。
 そして――

『カァー!!』

 物悲しくなった空気を切りさくように、高い声で一度だけ鳴く。
 すると、カーくんの姿が視えないはずの休田静ちゃんは、下げてていた顔をパッと上げた。
 そして空を見上げ「うん」と力強くうなずく。

「いつか絶対、また会えるよね!」

 休田静ちゃんが見上げた空。
 それは、カーくんと出会った雨空ではなく――
 どこまでも広がる、澄んだ青空だった。