「しんどいんだね。いいよ、このままで」
『……すみません。助けていただき、ありがとうございます』

「ううん、君からは悪い“気”を感じないから……。
 ねぇ、聞いていい? どうして妖怪になったの?」
『……あれは、忘れもしない。つい先日の事です』

 カラスは、穏やかな声で話し始めた。
 さすがに「カラスの話を中断する」つもりはないのか、千景くんは耳だけこちらに寄せている。

『私は致命的な怪我をして、道路の橋に、こんな風に横たわっていました。
 そこへ小学生たちがやって来ました。
 遠目から見ると、私は“かわいそうな鳥”に見えたのでしょうが、近くで見ると、ただのカラス』

 ――なんだぁ、カラスかぁ
 ――カラスって、ゴミを食べるから汚いんだって
 ――じゃあ、ほっとこーよ
 ――さんせー。いこいこ

『だけど、そこの女の子だけは違いました』

 カラスがチラリと、休田静ちゃんを見る。

『小学生たちの中に、そこの女の子もいた。
 皆が私を放っていく中――
 その子だけは、一人で、私のところに戻って来てくれたのです。
 そして雨に打たれる私の体に、ハンカチをかけてくれた』

 ――何もしてあげられなくて、ごめんなさい
 休田静ちゃんは、泣きそうな顔でそう言ったという。