「ごめんね、大丈夫?」
「へ?」

 声の方へ振り向くと、そこには、クラスの男子が一人。
 確か、名前は……。

「野良(のら)千景(ちかげ)くん……!!」

 この時、わたしの毛穴という毛穴から、汗がプシュッと飛び出した。

 だって、野良千景くんって言ったら、おだやかな雰囲気に、整った顔。
 黒い髪はサラリとさわやかで、なおかつ、優しい性格。

 そう――
 彼は、この学校の「王子様」とウワサされる、超モテ男子なのだ!

「の、ののの、野良くん……?
 ど、どどどどど、どうしたの……?」

 友達ゼロ人のわたしに不足しているもの、それはコミュニケーション能力。
 とてつもないドモリ方をしたわたしを、野良千景くんは心配そうに見た。

「すごい汗、それに顔が赤いよ。熱でもある?」
「ひえ……!?」

 野良千景くんが、チュウチョなく、わたしのオデコに手を当てる。

 ちょ、ちょっと待って!
 へ―ジョーシン!
 誰か、今すぐわたしに、へ―ジョーシンを持ってきてください!

 だけど、わたし達を見ていたクラスの人が、笑い始める。