「離せ! だから、俺に触るなって言ってんだろーが!」
「なんで触っちゃダメなの? ハイタッチくらいしたいよ!」
「これはハイタッチじゃなくて、握手だろうが!
 ――あ」

 千景くんが短く「あ」と言った後、すぐ。
 ボワンという音と共に、巨大な煙が現れる。
 そして煙は、まるっと千景くんを呑み込んだ。

 え! まさか新たな妖怪!?

「千景くん!」

 急いで煙をパタパタ扇いで、この場から飛ばす。
 しばらくすると、煙が晴れて来た。

 そこにいたのは――

「……にゃぉ」
「ネコ千景くん!?」

 黒ネコに変化した、千景くんの姿。

「か、かわいい~!」

 撫でようとすると、ネコ千景くんは「シャー!」と毛を逆立てる。
 刺激しないよう触りたいけど……ムリそうだ。
 千景くんって、人間の時もネコの時も、触らせてくれないなぁ……。

 落ち込んでいるわたしの前で、千景くんは二本足で立ち上がる。
 プルプルと体を震わせて……なんか怒ってる?