「おらよ。縛っといたぞ」
「はや!」

 ロープなんて、いつの間に……。
 っていうか、妖怪にもロープって効くんだね!

「ずっと縛っておくの?」
「ずっとじゃねぇよ。お前が納得するまでだ」
「へ?」

 わたしが納得? どういうこと?

 すると千景くんは、ポケットに忍ばせていた救急セットを取り出す。
 そして傷の手当をし、包帯をぐーるぐる巻きながら、わたしに話してくれた。

「恨みの感情に乗っ取られてるタヌキを、元に戻したいんだろ?
 妖怪になっちまったタヌキは、もう普通のタヌキに戻れない。
 だけど恨みを断ち切れば、凶暴化を押さえることは出来るはずだ」
「”乗っ取られる”って……」

 そう言えば、千景くんはさっきも言ってた。

 ――妖怪を前に、気を抜いたり、暗くなったりすんじゃねーよ。すぐ”乗っ取られる”ぞ

 乗っ取られるって、ようは……自分を失うって、そういう事なのかな?
 じゃあタヌキくんに自分を取り戻してもらえば、もう凶暴化はしないってこと?
 千景くんに祓われる心配もないってこと?

「良かった……。千景くん、ありがとう」

 傷の手当をしてくれた千景くんの両手を、ギュッと握る。
 すると――

「な……っ!」

 千景くんは一気に顔を赤くさせて、手をほどこうと、必死にもがいた。