――ジャマなんだよ、どけ!
 ――いや、どかない!

「そ、それは……」

 茶色の妖怪を、チラリと見る。
 すると妖怪も、ずっと私たちを見ていた。

『ニンゲン、絶対に許さない……!』

 妖怪は、まだモヤのまま。
 だけど、そのモヤの中央に、赤い目が浮き上がった。
 その目は、モヤと一緒にユラユラ動く。
 すると……なんだか妖怪が泣いているように見えた。

「あの妖怪は……人間に怒ってるんだよ」
「それで?」

「どうして怒ってるか、話だけでも聞いてあげたいなって……」
「……」

 千景くんを見ると、オニみたいな顔をした彼と目が合った。

 ヒ―!
 ここにも一匹、妖怪がいます!

「そんなあほくさい理由で俺を止めたのか」
「あ、アホくさいって……!
 人間に怒っているのに、理由も聞かずに一方的に祓ったら……。
 恨みが残って、また新しい妖怪が生まれるかもしれないよ!?」

「そんときゃ、また祓えばいいだけの話だ」
「う……」

 でも、それじゃあ……。
 恨みから生まれた妖怪は、いつ自由になるの?
 妖怪だからって、話も聞かずに祓うのは……違う気がする。

 ――こわがりの花りん~
 ――こわがりちゃーん

「……っ」

 一方的な態度は、必ず、相手を傷つける――
 わたしはソレを、痛いほど知っている。