「あわわわわわ、わわわ……!」

 唇が震えて、声にならない声が出る。
 本当は、今すぐにでも逃げ出したい。
 怖い妖怪から、一秒でも早く逃げたいよ!

「なんで、わたしばかり、いつもこんな目に……!」

 どうして、わたしは妖怪が視えるんだろう?
 なぜか妖怪には、私が「視える人」ってバレてるし……。
 朝みたいに「妖怪から話し掛けられる」事はしょっちゅうだし!
 他の人は視えないのに、どうしてわたしだけなの!?

「~っ!」

 悲しくなって、思わず目をつむる。
 すると――
 震えるわたしの肩に、大きな手が乗っかった。

 ポンッ

「いやー! 妖怪ー!」
「ちげーよ! 俺!」
「あ、なんだ。千景くんか……」

 妖怪じゃないと分かり、安心する。
 だけど千景くんは、ホッとしたわたしの背中を、思い切り叩いた。
 まるで、カツをいれるように。

 バシンッ

「いったー!?」
「おい。妖怪を前に、気を抜いたり、暗くなったりすんじゃねーよ。
 すぐ”乗っ取られる”ぞ」
「え、”乗っ取られる”……?」

 不思議に思っていると、千景くんは二本の指をピンと空に伸ばし、とあるポーズをした。
 え……あの構えって、確か!