「ね、猫又! これを見て!」
『ッ!』

 もう少しで、わたしに襲い掛かろうとした猫又。
 わたしはポケットの中に手を突っ込み、ある物を取り出した。
 それは――

「ば、バナナ……食べる?」
『……』

「……」
『……』

『ギャオ―!!』
「やっぱりダメだった!」

 ひー!!
 効果は、全くないようだ!
 昨日の子猫も、今日の千景くんも、バナナにかぶりついていたのにー!
 同じ猫でも、好きな物は違うんだね!?

『おのれ、バカにしおって!』

 猫又は、わたしに向かって、勢いよく前足をふり上げた。
 走れば逃げれるかも――と思ったけど。
 小石につまずき、ビタンッと地面にこけてしまう。
 その瞬間を、猫又は逃さなかった。

『まずは邪魔者から食らう!』
「きゃっ!」

 もうダメだ!
 逃げきれないと思い、顔の前で両手をクロスさせる。
 すると、その時。

「花りん!」
「え――」

 上空から、どんどん、わたしに近づく声。
 腕のすき間から見上げると――ネコ千景くんの姿があった。