……だけど中条くんは、そのクッキーを口に入れて「美味しい」って言葉を放った。いつもは、するする私の心に入ってきて、響いていたその言葉。今は受け入れられずに、はね返したくなる。

「これからも、ずっと僕のためにお菓子を作ってほしい。桜さんのお菓子だけ美味しく感じるんだ」って、言っていたのにね。

――やっぱり、他の人が作っても、レシピが同じなら、中条くんにとっては同じなんだよね。

 まるで、ずっとおだやかなオルゴールの曲が流れていたのが、急に止まったように。私のキラキラした気持ちも止まったように感じた。

 もやもやした気持ちは、あふれてくる。けれどそれがバレないように、私は「よかった!」と言って、むりやり笑顔を作った。

 お皿の上のクッキーを全部きれいに食べて、お土産のクッキーを持った中条くんは、しばらくすると満足そうな表情をして帰っていった。

 帰ったあと、ふっと緊張がとけて悲しい表情になっているのが自分でも分かる。お兄ちゃんはそんな私を見て、再びあやまってきた。

 可愛い妹が好きな男の子を家に連れてきて、ヤキモチを少しやいてしまい、いじわるなことを言いたくなったらしい。

 私の、中条くんへの想いに気がついているお兄ちゃんは「でも、ふたりを応援しているからな」って言った。

 私もお兄ちゃんか、それともお兄ちゃんが作ったクッキーに対してか、よく分からないけれど、ヤキモチをやいてしまった。

 ちょっと自分が、嫌になるよ――。