「行くぞ、リディア」

「はい、お兄様」

 兄の手を取って馬車から降りると、私は両親に『行ってきます』と告げた。
当然のように『行ってらっしゃい』と返事してくれる二人に微笑み、私は白い建物へ視線を向ける。

「ったく、しょうがねぇーな」

 一連のやり取りを見守っていたリエート卿は、ガシガシと乱暴に頭を搔いた。
『こうなったら、こいつも連れていくしかない』と判断したのか、兄の同行についてもう何も言わない。
『ほら、ちゃんと付いてこいよ』と一声掛け、彼は歩き出した。
そんな彼に続く形で、私と兄も歩を進める。
────と、ここで前方の建物から白い光の柱が立ち昇った。

「凄い神気(しんき)だな。複数持ちでも出現したか?」

 『ギフトを持っていれば(神に愛されていれば)いるほど、強い光を放つから』と述べる兄に、リエート卿は小さく頷く。

「時間的に儀式を行ったやつは……多分、皇太子だな」

「あぁ、そういえばもう七歳だったな。去年、父上の仕事で顔を合わせて以来だが、お元気だろうか」

 『そのうち、また挨拶に行くか』と呟き、兄は視線を前に戻す。
と同時に、建物の中へ足を踏み入れた。