「何故、お前がここに……」

 眉間に皺を寄せて恨めしそうに呟く兄に、リエート卿はこう答える。

「俺がリディアの案内役だから」

「はっ?ふざけるな。今すぐ、変えろ」

「ざんね〜ん。これは決定事項で〜す」

 兄の苦情をサラリと躱し、リエート卿は馬車の扉を開けた。

「んじゃ、怖いお兄様は放っておいて早く行こうぜ」

 冗談半分に『二人で逃避行だ!』と述べ、リエート卿は手を差し伸べる。
────が、兄に叩き落されてしまった。

「リディアに触るな。あと、儀式の間までは僕も行く」

「それはちょっと過保護すぎないか?」

「うるさい。本当は儀式の間の中までついて行きたいところを我慢してやっているんだ。感謝しろ」

 『あそこは関係者以外立ち入り禁止だから、しょうがなく……』と、兄は主張する。
そして、『おいおい、マジかよ』とドン引きするリエート卿を蹴り飛ばし、地面に降りた。

「では、父上母上ちょっと行ってきます」

「ああ」

「気をつけてね」

 『リディアをよろしく』と快く送り出す両親に、兄は一つ頷いた。
かと思えば、こちらに向き直り、手を差し出す。