「私はね、彼女のことを────縛りたくないんだ。自由なままで居てほしい」

 アメジストの瞳に僅かな期待と羨望を滲ませ、レーヴェン殿下は口角を上げた。
でも、その表情はとても笑っているように見えない。

「皇太子という立場上、私は何よりも帝国のことを優先しなければならない。どんなに愛していても、彼女のことを一番に考えられないんだ。だから、場合によっては彼女の気持ちを、願いを、尊厳を切り捨てる必要がある。君達のように迷わず、彼女を守ってやれない」

 未来の君主という運命を憂い、レーヴェン殿下はそっと目を伏せた。

「それに何より、彼女は皇太子妃に……国母に向いていない。あまりにもお人好しすぎるから。だけど、必要に迫られればきっと頑張ってこなしてくれるだろう。自分の心身をすり減らしながら……」

 強く手を握り締め、レーヴェン殿下は僅かに顔を歪める。
と同時に、真っ直ぐ前を見据えた。

「果たして、それは幸せと呼べるだろうか?」

 まるで自分自身に問い掛けるようにそう言い、レーヴェン殿下は身を起こす。