「なんか、頭を撫でられているみたいで照れるな……」

 口元に手を当ててボソリと呟き、リエート卿は控えめにこちらを見つめる。
その動作が、眼差しが、表情がなんだかいじらしくて……胸を高鳴らせてしまう。
余裕のないところが、私を想っている証拠みたいで嬉しかったから。

 あれ?私、もしかして……。

 胸の奥に隠れていたソレをようやく自覚し、私はハッとした。
────と、ここで急に腕を引かれる。

「ファーストダンスの時間だ」

 そう言って、素早く私の腰を抱き寄せたのは兄のニクスだった。
どことなく不機嫌そうな様子でこちらを見つめる彼は、四の五の言わずに歩いていく。
『あっ……』と思った時にはもう会場の中央で、ダンスを踊っていた。

 放心していても、ダンスって踊れるのね。
お兄様のリードが上手いからかしら?

 考えるよりも先にステップを踏んでいるような感覚に、私は『凄い』と感心する。
その時、ふとレーヴェン殿下と踊っている麻由里さんを見掛けた。
きっと、求婚を避けるという意味でペアになったのであろう二人に、頬を緩める。
なんだか、知り合いが居ると思うと嬉しくて。
『二人とも、凄い注目されているなぁ』とぼんやり考える中、不意に腰を抱き寄せられる。