「ニクスのことだから、一生リディアを結婚させずに囲い込むのかと思っていたぜ……」

「お前は僕をなんだと思っているんだ。まあ、一時期、そんなことも考えたが」

「いや、考えたことはあるのかよ……」

 呆れたように溜め息を零し、リエート卿はやれやれと(かぶり)を振った。

「ったく……最も厄介なやつが、ライバルになっちまった」

 落胆したように肩を落とし、リエート卿は『あ〜あ、ついてねぇーな』と嘆く。
でも、その声色はどこか嬉しそうだった。
きっと、吹っ切れた様子の親友を見てホッとしたのだろう。

「まあ、負ける気も譲る気もねぇーけどな」

 『恨みっこなしだぜ』と明るく宣言し、リエート卿は兄の肩に手を置く。
が、即座に振り払われてしまった。

「それはこちらのセリフだ。見事に振られて、泣きそベかくなよ」

 挑発するようにハッと鼻で笑い、兄はこちらを向いた。
かと思えば、私の髪を一房掬い上げる。