「ええ、気長に待っているわ」

 『死に急ぐようなことはないように』と釘を刺し、リディアは────光となって弾けた。
どうやら、ついにギフトの効果が切れたらしい。
『嘆きの亡霊』で呼び出した魔王の仲間や友人も、次々と消えていく。
やがて霧も晴れ────リディアと『共鳴』した魔王も、

「感謝する。そして、すまなかった」

 光となって、弾けた。
まるで、リディアに起きた現象を(なら)うかのように。
塵一つ残さず消えた魔王達を前に、私はギュッと自分自身を抱き締める。
先程まで腕の中にあった温もりを忘れぬように、と。
必死にリディアの存在を脳裏に刻み込む中、ふと足に違和感が……。
何の気なしに下を向くと、靴の上に手を置く猫さんの姿があった。

 す、すっかり忘れていたわ……この子って、どうすればいいのかしら?
魔物だから、やっぱりその……殺処分?

 『それはさすがに可哀想……』と眉尻を下げつつ、膝を折る。
すると、

「────我らが英雄を救ってくれて感謝する、若人達よ」

 と、聞き覚えのない声が耳を掠めた。
驚いて固まる私達を他所に、猫さんは『ニャー』と鳴く。
そして一回ずつ私達の足に頬擦りすると、白い光に身を包んだ。
『えっ!?』と声を上げる私達の前で、猫さんはどんどん形を崩していき、やがて消滅する。