「アカリのこと、よろしくお願いしますね」

 まるで心配性のお母さんのようにそう言い、リディアは魔王の横へ並んだ。
終焉を予感させる曖昧な笑みを零しながら、ただひたすらこちらを見る。

「泣かないで、アカリ」

「えっ?」

 ハッとして自身の頬に触れる私は、ようやく泣いていることを自覚する。
『い、いつの間に……』と動揺する私を前に、リディアはスッと目を細めた。

「私を負い目に感じる必要はないわ────と言っても、きっと無理よね。アカリは優しいもの。だから」

 そこで一度言葉を切ると、リディアは僅かに身を乗り出す。

「負い目を感じている分、幸せになって。そしたら、私も笑顔になるから」

 『貴方の幸せが私の幸せなの』と語り、リディアはこちらの負担を減らそうとしてくれた。
死に際にも拘わらずこちらを気遣ってくれる彼女に、私は『このままじゃダメよね』と奮起する。
私の方がお姉さんなんだからと己を叱咤し、

「ありがとう、リディア。幸せになるわ。だから、そっちに行くまでもう少しだけ待っていて」

 私はリディアに抱きついた。
『さよなら』は言わないと胸に決め、リディアの存在を全身で感じようとする中、彼女は小さく笑う。