「俺達はそういうことを言いたいんじゃない!ただ、アカリのことが心配なんだ!」

 堪らず身を乗り出し、リエート卿は私の手を掴んだ。
怒ったような……泣きそうな表情でこちらを見つめる彼に、私はふわりと柔らかく微笑む。

「ええ、分かっています。その気持ちは凄く有り難いです。でも、皆さんを巻き込む訳にはいきません。だって、リエート卿もレーヴェン殿下もお兄様も麻由里さんも帝国の未来を担っていく方々ですから」

 『国民に悪印象なんて持たれたらダメ』と主張し、私はやんわり手を解いた。
肩を掴む兄の手もゆっくり下ろし、一歩後ろへ下がる。
────皆の輪から、外れるように。
『帝国の安寧のためにも離れなければ』と覚悟を決めていると、不意に霧が揺れた。

「────そうね。未来ある者達を巻き込む訳にはいかないわ」

 そう言って、私達の前に姿を現したのは紫髪の少女。
私や父とよく似た目を持ち、堂々と振る舞う彼女はある人物にそっくりだった。