「この世界にお前が救わないといけない存在は、居ない。つまり、神々は英雄になることを求めてここに転生させた訳じゃないんだ」

「恐らく、貴方を休ませるためにここへ連れて来たんじゃないかしら?だって────それほどの力を持っていながら、試練や苦難は特になかったでしょう?」

「!」

 驚いたように目を剥き、魔王は慌てて顔を上げた。
『まさか……』と目を白黒させる彼の前で、緑髪の美男子は穏やかに微笑む。

「基本、大きな力には大きな責任が伴う。そのため、正しく力を使えるよう神々は敢えて試練を用意するんだ。俺達だって、幾度となく壁とぶつかり、その度乗り越えてきた。でも、今回だけは違うだろう?」

「貴方が死を望んで魔王となったことで降り掛かった災難はたくさんあるでしょうけど、それ以外に困難はあった?」

「……なかっ、た。ギフト複数持ちで持て囃されることはあったけど、別に何も強制されなかったし……」

 震える手で口元を押さえ、魔王は数歩後ろへ下がった。
今回の転生への認識が間違っていたかもしれないと気づき、動揺を隠し切れないのだろう。
────と、ここでリエート卿が口を開く。