「……聖なる杖を破壊された時点で、僕達の計画は全て台無しになった。ここは一旦逃げるべきだろう」

 『このまま戦いを続けても無意味』と言い切り、兄はこちらにゲートを開くよう要請する。
それにコクリと頷くと、彼は真っ直ぐに前を見据えた。

「離脱準備が整うまで、防御に徹しろ。死ぬ気でアカリを守れ」

 魔法で氷塊を量産しながら、兄は妖精結晶を使用する。
後退するまでの時間、魔王には何もさせないつもりなのだろう。
『弾幕を張って牽制するつもりなんだ』と悟る中、魔王は夜に染まった瞳を怪しく細めた。

「おや?いいのかい?このまま、逃げて」

「何が言いたい?」

 数百に登る氷塊を魔王へ叩き込みつつ、兄は眉間に皺を寄せる。
すると、魔王はクツリと笑みを漏らした。

「君達が退いた瞬間、僕は────人間の大虐殺を行う」

「「「!?」」」

 衝撃のあまり固まる私達に、魔王は淡々と告げる────残酷すぎる現実を。

「君達のせいで魔族の育成は失敗してしまったが、世界を滅ぼす手が全くない訳じゃない。少なくとも、ルーチェ帝国を破滅に追い込むくらいは出来るだろう」

「「「っ……!」」」

 『そんなこと出来る訳ない!』とは、嘘でも言えず……私達は歯を食いしばった。