「下がれ!」

 怒号に近い声色で指示する彼に従い、私達は五十メートルほど魔王から距離を取る。
リエート卿も、付かず離れずの距離を保ちながら一緒に後退した。

 一先ず、ここまでは作戦通り。

 私達の周囲の温度だけ魔法で調整し、一息つく。
これで凍死する危険はなくなったため。

「それにしても、何故魔王はあんなに平然としていられるんでしょうか?かなり寒い筈なんですけど……」

 攻撃手たる兄にとって戦いやすい環境を作るため、天候や温度を色々いじったのだが……魔王に堪えた様子はない。
荒野にポツンとある玉座に腰掛け、じっとこちらを見つめている。

「痩せ我慢している……訳では、なさそうだな」

 誰よりも前に立って魔王の攻撃を警戒するリエート卿は、『感覚麻痺してんのか?』と苦笑いした。
ちょっと呆気に取られている様子の彼を前に、レーヴェン殿下は仮面を被る。