私は所詮、リディアの偽物で……代替品に過ぎないと思っていたけど、そっか。
────アカリ()の手で築き上げたものは、ちゃんとあるんだ。

 ずっと『リディアのもの』という意識が強く、功績も物も人間関係もどこか借り物のように感じていた。
唯一、自分の力で得られたと思えるのはルーシーさんとの繋がりくらいだろうか。
だから、リエート卿にアカリ(私自身)が好きなんだと言われ、胸を打たれた。

「ありがとうございます、リエート卿」

 ふわりと柔らかい笑みを零し、私は繋いだ手を握り締める。
『おかげですっかり元気になりました』と言うと、彼はホッとしたように表情を和らげた。

「礼なんていいって!それより、早く行こうぜ!これ以上遅れたら、ニクスに怒られそうだ!」

 そう言うが早いか、リエート卿はスクッと立ち上がり歩き出す。
いつもより、ほんの少し歩調を速めて。
でも、決してこちらの気遣いは忘れず……また、会話が途切れることもなかった。