「手紙はその箱に入っています。どうぞ、中を確認してみてください」

 そう言って鍵を差し出すと、母は震える手で受け取った。
緊張した面持ちで鍵を見下ろし、ゴクリと喉を鳴らす。
恐る恐る箱を開け、中を確認する彼女は慎重にゆっくりと本物のリディア直筆の手紙を取り出した。

「もう十年も前のものなので多少古くなってはいるでしょうが、大事に保管してきたため文字は読める筈です。お辛くなければ、読んであげてください」

 リディアの最後の想いや言葉を知ってほしくて……私は手紙を(あらた)めるよう促す、
すると、両親は黙って頷き、封筒から一枚の便箋を取り出した。
折り畳まれたソレを丁寧に広げ、文面へ視線を落とす。
と同時に、母は泣き崩れた。
父も辛そうな顔をしているが、皆にも内容を伝えるため口を開く。

「私の体に憑依、してしまった方へ……突然このような事態に巻き込んでしまい、ごめんなさい。でも、もう限界なの……全部疲れた。だから、貴方に私の体をあげる……好きに使ってくれて構わない、わ。ただ、一つだけ……可能であれば、色んな人に愛される人へなってほしい……っ!」

 これでもかというほど顔を歪め、父は目に涙を浮かべた。
最後まで読むことが出来ない父に代わって、今度はノクターン皇帝陛下が言葉を紡ぐ。