「礼なんて、いい。それより、こんなに不安にさせて悪かったな」

 よしよしと私の頭を撫でながらもう一方の手で涙を拭い、兄は『もう大丈夫だからな』と繰り返す。
とても、とても優しい声で。

「やっぱ、もっと早く伝えるべきだったか?ごめんな、リディア」

 『明日のために仕事を片付けていて』と語り、リエート卿はそっと肩を抱き寄せてきた。
そのおかげか、不安と緊張で冷えていた私の体は徐々に暖まっていく。

「これ、良かったら使っておくれ。返さなくていいから」

 号泣している私を見兼ねてか、レーヴェン殿下はハンカチを差し出した。
『新品だから安心して』と述べる彼の前で、何故か兄がソレを受け取る。

「ありがとうございます、レーヴェン殿下」

「どういたしまして……?」

 困惑気味に瞬きを繰り返すレーヴェン殿下に、兄は小さく頭を下げた。
かと思えば、ハンカチでいそいそと私の目元を拭う。

「はぁー。相変わらず、甲斐甲斐しいですねー。さすが、シスコン」

 『過保護ー』と冷やかすルーシーさんは、呆れたように肩を竦める。
が、兄は素知らぬ顔でスルー。