幸せだった頃の記憶が薄れているからか、どうも落ち着かない。
『ここへ来るのも今日で最後かな』なんて思いながら、一先ず席に着いた。
真新しい長テーブルを眺めつつ、私はギュッと胸元を握り締める。

「それで、えっと……お話というのは?」

 なんだか居た堪れない気持ちになってしまい、私は早速話を切り出す。
多分、思い出の詰まったこの場所に長く居たくなかったんだと思う。
どうしても、名残惜しく感じてしまって。
『未練なんて、残しちゃダメよ』と自分に言い聞かせる中、兄とリエート卿は互いに顔を見合わせた。
かと思えば、どちらからともなく頷き合い、こちらへ視線を向ける。

「リディア、先に言っておく。僕達はお前を責めるつもりもなければ、蔑ろにするつもりだってない」

「完全に『今まで通り』とはいかないだろうけど、俺達なりの関わり方っつーか、新しい関係性?を見つけて行ければと思う」

「!!」

 非常に前向きな……まるで夢のような言葉を投げ掛けられ、私は固まった。
レーヴェン殿下やルーシーさんも、少し驚いたように目を剥く。
────と、ここで兄とリエート卿が席を立った。