「『怖い』とか、『不気味』とか思いませんか?だって、もしかしたら……リディアに無理やり、憑依したかもしれないんですよ?」

「いや、それはないね」

 思わず否定の言葉を口走る私は、『おっと……』と心の中で呟いた。
私自身、驚いたから。
まあ、本心だから別に構わないのだが。

「私の知っている君は、他人の体を無理やり奪うような子じゃない。どちらかと言えば、そうだね……巻き込まれた側かな?」

「!!」

 図星だったのか、リディア嬢はピクッと反応を示す。
『何故、それを?』と言わんばかりに目を見張る彼女の前で、私はクスリと笑みを漏らした。
『やっぱりね』と思いながら。

「もちろん、憑依のことを聞いて驚きはしたよ?そんなこと有り得るのかって、何度も疑問に思った。でも、恐怖や不安は特に感じなかったかな。元々の……憑依する前のリディア嬢を知らないからというのもあるけど、私は────」

 そこで一度言葉を切ると、私は彼女の頬に手を滑らせた。
柔らかな感触に目を細めつつ、うんと表情を緩める。

「────君自身を買っているからね」

「!!」

「本物か、偽物かなんて関係ない。私は君だから優しくしたいし、君だから力になりたいし、君だから甘やかしたいと思う」

 親指の腹で優しく優しく頬を撫で、私は少しだけ顔を近づけた。
タンザナイトの瞳を真っ直ぐ見つめ返し、『大丈夫、本心だよ』と示す。
と同時に、コツンッと額同士を合わせた。