『どうして、気づかなかったのだろう?』と自己嫌悪に陥る中、ルーシーさんは表情を引き締める。
何とか平静を取り戻したのか、彼女はどこか凛とした雰囲気を放っており、真っ直ぐだった。

「────魔物、なの?」

「ご名答」

 男性は全く悪びれる様子もなく、淡々と事実を肯定した。
あまりにも堂々とした態度にこちらが面食らっていると、彼は黒い瞳をスッと細める。

「では、改めてご挨拶と行こうか。僕は────ハデス。君達が魔王と呼ぶ存在だ。こっちは愛猫のチェルシー」

 律儀に猫さん……改めチェルシーの紹介までしてくれたハデスは、ゆるりと口角を上げた。
────と、ここで私達は身構える。
魔王が目の前に居るのなら、戦闘を……いや、死闘を覚悟しないといけないため。
『まだ全ての任務を遂行出来ていないのに』と苦悩する中、ハデスは僅かに目を見開いた。
かと思えば、少し笑う。

「あぁ、安心して。今日は君達の偵察に来ただけで、争うつもりはないから」

 『最近、なんだかコソコソしているから気になって』と零し、ハデスはチェルシーの頭を撫でた。