「全く、急に居なくなるからビックリしたよ。一体、何がそんなにお前の気を引いたんだい?普段は僕にベッタリなのに────おかげで、目的を果たせなかったじゃないか」

 見たかった出し物を断念したのか、男性は『困ったものだ』と零す。
すると、猫さんがニャーと鳴いてこちらを見た。
それに釣られるように、男性も顔を上げる。
ちょっと癖毛がちな黒髪を揺らしながら。

「おや?君は……」

 私を知っているのか、男性は驚いたように目を見開いた。
かと思えば、愉快げに笑う。

「なるほど────リディア・ルース・グレンジャーの人生を受け継いだ(・・・・・・・・)君は、そちら側についたのか。これはちょっと予想外」

「「!?」」

 まるで憑依のことを知っているような口ぶりの男性に、私とルーシーさんは動揺を示した。
だって、このことは私達しか知らない筈だから。
少なくとも、私はルーシーさんにしか憑依のことを明かしていない。
つまり────

「────憑依前のリディアから、事のあらましを聞いている……?」

 無意識にそう口走り、私はまじまじと男性を見つめる。