「仕方ないな。ここは僕がお手本を見せてやろう」

 そう言うが早いか、兄はあっさり猫さんを抱き上げる。
猫パンチはもちろん、威嚇もない。
ただ、猫さんはこちらを見てニャーニャー鳴いていた。
どうやら、私の腕に戻りたいらしい。

「な、何で……!?ニクス……様はめちゃくちゃ意地悪なのに!」

「そうだ、そうだ!納得いかねぇ!」

 『見る目ないだろ、この猫!』と叫び、リエート卿はルーシーさんと共に騒ぐ。
が、兄はどこ吹く風。

「リディア、レーヴェン殿下。飼い主を探しに行きましょう」

 リエート卿とルーシーさんを完全に無視し、兄は扉へ向かった。
さっさと捜索を始めようとする彼の前で、私は苦笑を零す。
が、隣に立つレーヴェン殿下の表情は妙に硬かった。

「あの……どうかなさいましたか?」

「……いや、何でもないよ。多分、僕の考え過ぎだろうから」

「?」

 訳が分からず首を傾げる私に、レーヴェン殿下はニッコリと微笑んだ。
そして詮索を避けるように兄の後ろへ続き、会話を打ち切る。
なんだか誤魔化されたような気がしてならないが、言いたくないことを無理やり聞き出すのはダメかと思い、諦めた。
何より、レーヴェン殿下はああ見えて頑固だから喋らないと決めたら絶対に曲げない筈。