「いいから、貰って」

「で、でも……」

「今日は本当に楽しかったの。人間の文化や価値観に触れられたのもそうだけど、貴方とたくさん話せて凄く幸せだったわ。こんなに充実した時間を過ごすのは、久しぶり。だから、そのお礼がしたいのよ」

 両手を挙げて仰け反る私に、フィリアは尚も食い下がってきた。
どこか必死さを感じる表情でこちらに詰め寄り、私の手を取る。
あまりにも強引なフィリアに目を剥いていると、彼女は少し顔色を曇らせた。

「何より────魔王に……ハデス(・・・)に立ち向かうなら、これくらい備えておかないと」

「!?」

 今、魔王のこと『ハデス』って呼んだ……!?
もしかして、顔見知り!?

 『てか、魔王にも名前あったんだ!』と衝撃を受ける中、フィリアは穏やかに微笑む。
でも、ちょっと寂しそう……というか、不安そうだった。