「そんなある日、お姫様のところに隣国の王子様がやって来ました」

 その言葉を合図に、舞台袖からレーヴェン殿下が登場した。
名実ともに王子の彼は極自然にキラキラしたオーラを放ち、ルーシーさんへ近寄る。
と同時に、胸を押さえて固まった。

「嗚呼、なんて美しい人だ。良ければ、私の妻になって下さいませんか?」

 蕩けるような笑みを浮かべ、レーヴェン殿下は手を差し伸べる。
しかも、跪いて。
これには、観客達も思わずうっとり。
『ヒロイン役の子、羨ましい』なんて声が上がる中、私はステージ上へ姿を現す。

「あら、いけませんわ、王子様。貴方の妻になるのは、この私です」

 袖に手を隠した状態で腕を組み、私は偉そうに振る舞った。
その瞬間、何故か観客席の方から冷たい視線を感じる。
『なんだろう?』と思ってそちらに目を向けると、不機嫌そうな兄とリエート卿が居た。
『誰が誰の妻に、だって?』と苛立つ二人を前に、私は一瞬ギョッとする。
が、レーヴェン殿下に視線で促され、一先ず悪役を全うすることにした。