さて、私はどうしようかしら?
表情の練習でもする?

 未だに何度も注意される事柄を思い返し、私は壁際にある鏡へ近づいた。
『悪役っぽい表情……』と呟きながら口角を上げたり下げたりしていると、不意に茶髪が目に入る。
何の気なしにそちらへ視線を向ければ────ひたすらダンスの練習に励むルーシーさんの姿が、視界に映った。

「やっぱり、ルーシーさんは凄い人ね」

 逆境を嘆く訳でも投げやりになって全てを諦める訳でもなく、努力する道を選べる人はとても少ない。
本当は凄く凄く辛い筈なのに、歯を食いしばって頑張る彼女はまさにヒロインだった。

「良かったら、練習に付き合うよ」

 そう言って、ルーシーさんに手を差し伸べたのはレーヴェン殿下だった。
『お相手役が居た方がいいだろう?』と述べる彼は、アメジストの瞳をスッと細める。
立場上厳しいことも言うが、なんだかんだルーシーさんの努力を一番買っているのは彼だろう。

「ルーシーさん、良ければ私もお手伝いします。と言っても、ちょっとしたアドバイスくらいしか出来ませんが」

 『男性パートは踊れないので』と苦笑する私に、ルーシーさんは呆れたような……でも、ちょっと嬉しそうな笑みを漏らす。