「いや、そういう意味じゃ……はぁ、もういい」

 大真面目に取り合うのも馬鹿らしくなり、僕はさっさと話を流した。

「それより、これ放っておいていいのか?」

 口を開けたまま微動だにしないアガレスを指さし、僕は『凄い間抜け面だぞ』と述べる。
すると、リディアは慌ててアガレスの方へ向き直った。

「そうでした!えっと……舌の上で転がすように、味わってみてください」

 たった一粒しかないということもあり、リディアは『ただ咀嚼して飲み込むだけじゃ勿体ない』と思案する。
そんな彼女の前で、アガレスはゆっくりと口を閉ざした。
かと思えば、少し目を見開く。

「……うまい」

 初めて『飯』以外の単語を発し、アガレスは僅かに表情を和らげた。
多少空腹を満たされたおかげか、先程より人間らしく感じる。
少なくとも、獣のような獰猛さはなかった。