「チッ……!このお人好しめ、恩を仇で返されても知らないからな」

 『自己責任だ』と主張しつつも、僕は魔法の発動準備へ入る。
本当に恩を仇で返されたら……リディアに怪我でもされたら、困るため。
『知らない』というのは、ただの嘘……いや、強がり。
本当は心配で堪らないのだ。

「うふふっ。ありがとうございます、お兄様」

 ふわりと柔らかい笑みを零し、リディアは僕の隣に並んだ。
そして、アガレスの目の前までやってくると、チョコを包装から出す。
微かに甘い匂いを漂わせるソレを手のひらの上に載せ、アガレスに見せた。

「これは食べ物です。とっても、甘くて美味しいんですよ。良かったら、食べてみませんか?」

「め……し?」

「えっと、どちらかと言えばデザートですが……まあ、大きな括りで言うとそうなりますね」

「……」

 一応言葉は通じるのか、アガレスは黙ってチョコを見つめる。
その間にも、氷結範囲は確実に広がっているが……気にならないようだ。
『命より飯なのか』と半ば呆れる中、アガレスは大きく口を開ける。
一瞬、『リディアに噛み付くつもりか!?』と焦ったものの……どうやら、そうではなさそうだ。
ただ口を開けているだけという状態に、僕は

 こいつ、まさかリディアに食べさせてもらおうとしているのか?

 と、悟る。