「事件の経緯についても、私に配慮してくれて……本当に感謝しています。女性としての尊厳を失わずに済みました」

 『傷物』というレッテルを貼られずに済んだことに、ルーシーさんは心底安堵しているようだった。
『本当にありがとうございます』と何度も言う彼女の前で、私達は顔を見合わせる。
頑張った甲斐があった、と思いながら。

 皇室や神殿とも話し合い、ルーシーさんを襲った理由は単なる逆恨みとして処理した。
結婚云々の話は我々関係者と極一部の大人しか、知らない。
そういう風に事実を隠蔽出来たのも、リエート卿とレーヴェン殿下の説得、そして────お兄様の機転のおかげ。

 学園へ戻る前にルーシーさんの傷を治療するよう、指示したのはお兄様だからね。
まあ、実際に治療したのはルーシーさん自身だけど。
なんでも、『光の乙女』の能力の一つに治癒があるらしい。
と、それはさておき……暴力を振るわれた事実をひた隠しにすることで、周囲の印象を塗り替えた。
ルーシーさんは攫われる寸前……荷馬車に乗せられそうになっている時に助けられた、と。
無論、他にも手を打った上でこういう結果に落ち着いた訳だけど。
でも、『論より証拠』という言葉があるように無傷で帰ってきた彼女を周りに見せなければ、ここまでスムーズに事は運ばなかっただろう。