なんとも面白味のない回答だが、これが私の正直な気持ちなのだからしょうがない。
などと考える私の前で、レーヴェン殿下は僅かに目を見開いた。

「えっ?ないの?」

「はい」

「本当に?」

「はい」

「有名人になりたいとか、誰よりも強くなりたいとかそういう願望も?」

「ありませんわね」

 リディアに憑依したのが好奇心旺盛な男の子なら、そういう願望を抱いていたかもしれないけど……私は一切興味ない。
ただ、大切な家族や友人と仲良く過ごしたいだけ。

「あっ、でも────」

 そこで一度言葉を切った私は、ふと頭に思い浮かんだ願い……というか、想いを口にする。

「────手の届く範囲に困っている人が居て、私の力でどうにか出来ることなら力になりたいとは思います」

 夢や野望とも言えぬ考えを、ギフトの使い道を語り、私はアメジストの瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
クライン公爵家の一件を通して、私は痛感した。
自分に英雄の真似事は無理だ、と。
どんなに凄い力を持っていても、私はただの凡人で……凄く未熟。
あの時だって、兄やリエート卿が居なければ何も出来なかった。
でも、だからこそ────自分に出来ることを精一杯やりたい、と思ったんだ。
誰かの役に立ちたいから。