社交界デビューの時も、皆で揃って王太子だった彼に挨拶をしたような気がするけど、周囲には同じ年にデビューした令嬢たちが大勢居たから、アルベルト様だって覚えてもいないだろう。

「……陛下。こちらが妻のレニエラです」

「はじめまして。陛下」

 緊張しながらカーテシーをして頭を下げた私に、堅苦しい挨拶は止めて頭を上げるようにと陛下は快活な声で言った。

「これはこれは、美しいではないか……モーベット侯爵夫人レニエラ。もっと、君とは早く会いたかった。いや……今からでも、遅くないか? もし良かったら面白みのない夫と離婚して、私の妃にならないか? 君がモーベット家のままで居たいというのなら、愛妾としてでも構わない。我が国では数代愛妾は居ないので、既に形骸化されてしまった制度だが、臣下の妻を愛妾にすることは、私は許されているのでな」

「まあ……ふふ。お上手ですね。陛下。褒めて頂けて嬉しいです。ありがとうございます」

 私はあまり良くない軽口の部分は、まるっと無視して、にっこりと微笑み、容姿を褒められたことのみ反応してお礼を言った。