「そうなの? あの値段の宝石を即決で購入を決めてしまうくらいだから、金銭感覚がおかしいことは間違いないと思うわ。ジョサイア」

 彼女の左手にはレニエラが自分で選んだ宝石が、填め込まれた指輪が光っていた。価格面では高価ではないのだが、彼女が気に入っていると言うので満足している。

「……君に金を惜しむつもりはない」

 彼女へ贈る機会が一生に一度の婚約指輪と、他の購入品を一緒にされてしまっても困る。

「はいはい……貴方に愛されていて、本当に幸せですわ。モーベット侯爵様」

 レニエラは冗談めかして微笑んだので、僕も彼女と同じように笑った。

「僕も幸せだよ。愛する君と結婚出来て……今ここに居る自分が、夢のようだ。君は僕からの愛をお望みではなかったようだったし……」

 レニエラのあの言葉は、悲しみの裏返しだったと理解している。

 あの男からの暴言も酷い態度も、彼女をずっと苦しめていた。婚約破棄をされても、平気な顔をしていたのは、あまりに痛すぎて心の痛みを麻痺させていただけだ。